杉戸洋 とんぼ と のりしろ Hiroshi Sugito module or lacuna 2017年7月25日[火] - 10月9日[月・祝]

インタビュー/Interview

杉戸洋さんが東京の美術館で初めて開く個展「杉戸洋 とんぼ と のりしろ」(会期:7月25日~10月9日)。東京都美術館のギャラリーの展示空間としての難しさを逆手にとって考えるところから始まったという、展覧会開催までのエピソードや思いをうかがいました。

“Hiroshi Sugito module or lacuna” (period: July 25 – October 9) will be Hiroshi Sugito’s first solo exhibition at a Tokyo art museum. His approach this time, he says, was to look for opportunity in the difficulties posed by this museum’s galleries as exhibit spaces. We asked Sugito to talk about his process of staging the exhibition, this time.

「もしこの場所が、自分のリビングルームだったら。それがイメージの原点」

写真1/町の歩道

[写真1/町の歩道]

 「絵のような平面のものというよりは立体物にあう、すごく特徴のある空間だと感じました。床はタイルで、壁はごつごつしたはつりのコンクリート、天井はアーチ型でレンガ色をしていて、重厚な素材がたくさん使われている。だから、自分の作品というよりもその空間全体をきれいに見せられたらと思ったんです」

 個展の会場となる東京都美術館のギャラリーの吹き抜けの空間を見たときの印象を杉戸さんはこのように話す。それがきっかけで、東京都美術館の建物の特徴であるタイルに着目するようになったと言う。

 「タイル1枚でも、じっと見ているとそれまで見えていなかったものが目に映るようになってきました。例えば、歩道に使われたレンガブロックやジョギング用に塗り分けられた路肩の色。車道のアスファルトは雨が降るとより黒く輝き出す。ああ、きれいだなと思って、最初は美術館に雨を降らそうと思ったけど、さすがにそれはできない(笑)」

写真2/水野製陶園

[写真2/水野製陶園]

写真3/釉薬のサンプルがかかる水野製陶園の工場内

[写真3/釉薬のサンプルがかかる水野製陶園の工場内]

 東京都美術館の建築や空間などについて考えていたところ、愛知県の常滑にある水野製陶園のレンガタイルを使った制作を思いつく (美術館のタイルも常滑で制作)。

 「あの展示空間では絵の具で塗った色は弾かれてしまう気がしたんです。火が通ったものじゃないと何か落ち着かない。タイルなら雨も釉薬で表現できるのではないかと。絵の具であれば簡単にできる理想の色を釉薬で表現することはとても難しくなりそうですが、普段の絵の制作と違うアプローチなので、初めての挑戦を楽しんでいます」

 近年、杉戸さんは絵画以外にも建築家の青木淳さんらとユニットを組み《ぽよよん小屋》など立体の構築物の制作なども手がけている。そして、このタイルを使った作品もまた新たな試みのひとつだ。

 「建築家の建物に対する思考が意識の中に入ってくると、これまで邪魔だと感じていたものとどうすればうまくつきあっていけるのかを考えるようになってきたんです。東京都美術館は藝大の隣にあるので、これまでのどの個展よりも会場に足を運びました。初めて見た時はとても難しい展示空間だと思ったのですが、何度も通ううちに少しずつ自分のものとして馴染んできて、もしこの場所が自分のリビングルームだったら、と考えるようになってきました。展示室は現状復帰が基本で壁や床材をかえたりはできません。いわば賃貸の部屋なので、そういった制約も含めて楽しみました」

写真4/本展先行チラシ

[写真4/本展先行チラシ]

 展覧会の先行チラシには展開した封筒がビジュアルイメージとして用いられている。杉戸さんは「とんぼとのりしろ」に込めた意味をこのように話す。

 「東京都美術館の建物は基本的に3m×3mのグリッドの上に黄金比が重ねられ設計されており、じっと眺めていると頭の中にとんぼとなるグリッドがイメージできます。通常は箱の中身が大切で、見えないところなんですけど、その箱を開いたときに見えてくるのりしろ部分のことも忘れていない。そんな気持ちを込めたものです」

 そして最後に杉戸さんはこう話した。「展示そのものはもちろんですけど、見終わった後に、例えば東京都美術館の壁のタイル1枚にも美しさを感じてもらえたら。理想としては、仮に家に安いプランターがあったら、陶器の植木鉢に移したい、そんな気持ちになってもらえたらいいなと思いますね」

【2017.5.13 東京藝術大学 油画第4研究室にて】(写真1–3:©Hiroshi Sugito)

The exhibition galleries have tile floors and coarse, chipped concrete walls with a red Indian sandstone vault ceiling overhead. Profound materials are plentifully used. The large void gallery is a distinctive space, suited better to displaying three-dimensional objects than paintings.

I previously created a three-dimensional work together with architect Jun Aoki. At that time, I became aware of how architects think regarding buildings, and I got into the habit of trying to harmonize with things I previously felt were simply in the way. This time, too, it occurred to me to find opportunity in the difficulty of the galleries, and I wondered how I might show not my works so much as the entire space in a beautiful way.

I feel more relaxed with things treated with fire than things colored using paint. Tile, for example, achieves expression with either rain or glaze. I have begun exploring methods of production other than painting, such as my experimentation at the MIZUNO SEITOEN LAB. in Tokoname, Aichi prefecture, a project I had long had in mind.

So, I tried looking at these probably difficult exhibit spaces with an attitude of “What if this place were my own living room?” If I could move viewers so that, for instance, after seeing the exhibits, they look and find beauty in a tile on the Tokyo Metropolitan Art Museum wall, this would be good. More ideally, supposing they had a cheap planter in their house, if I could move them to feel they wanted to replace it with a ceramic pot.